昭和12年創業。花街の面影を残す神楽坂の路地に、ひっそりと佇む名酒亭である。

薄明かり差す路地の一軒家。椿の植え込みに囲まれた入口に長縄暖簾。堂々たる扁額に「伊勢藤」の文字。脇に掲げられた行灯の、墨痕鮮やかな「伊勢藤」の文字も美しい。

思わずえりを正したくなる端正な店で、酒ときちんと対峙して飲もうと思わせる。

薄暗い灯りが、障子に柔らかく反射し、藁切りこみの荒壁と、時代が染み込んだ黒光りする板壁や柱、囲炉裏を囲むカウンターを優しく包み込む。

カウンターより一段上がった右手は、座敷となっている。

隅々まで細やかな神経が行き届いた最上質な質素さが、空気を引き締める。代々培われてきた日本の美学に、心が据わる。

現代社会と遮断された、ゆるりと流れる時間に身を置き、炭火で温められた燗酒をやろう。エアコンではなく、冬は石油ストーブ、夏は団扇というのもいい。

出される肴は、一汁三菜。ある日は、枝豆、ほやの塩辛、茄子と舞茸の煮浸し、味噌汁。

板に手書きされた品書きは、豆腐、納豆、味噌田楽、丸干し、たたみいわし、エイのヒレ、カワハギ、くさや、イカの黒作り、イナゴに明太子。酒は白鷹の本醸造。店の作りと同じように、一切の無駄がない。

初めての方は緊張されるかもしれないが、酒呑みを拒む店ではない。昔の居酒屋の美学に浸りながら、ひたすら静かに酔う幸せが、ここにはある。

出展:http://kagurazaka.yamamogura.com/wp-content/uploads/2013/02/isetou.jpg

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